――― サンタが街にやってくる ―――
シャンシャンシャン・・・シャンシャンシャン・・・
軽快な音楽と賑やかな鈴の音が、街中に鳴り響いている。
ご機嫌なカップルや家族連れで、通りはどこも溢れ返っている。
今日は12月24日、クリスマスイブ。
冷たい木枯らしが吹き荒ぶ中、何の予定も入っていない私はコートの襟に顔を埋めながら、人込みを避けるように歩いていた。
(カカシ先生・・・、今頃何してるのかなぁ・・・)
極秘任務の命を受けて、カカシ先生が里を出から二ヶ月あまり。
「寒くなる前に帰ってくるから」って笑って出ていったきり、先生からの連絡は全然ない。
里で屈指の上忍ともなると、一体何処で何をしているのか、常人にはあずかり知らぬ任務ばかりで、
私は、いつ帰ってくるのかさっぱり分からないカカシ先生を、ヤキモキしながら待つしかなかった。
元気なのかな。
怪我してないのかな。
時々は、私の事思い出してくれてるのかな・・・。
「あーあ、覚悟はしてたけどね・・・」
誰もいない部屋に戻るのが遣り切れなくて、意味もなく街中をウロウロと歩いてみる。
ふと、街頭でクリスマスケーキを売っているサンタクロースのおじさんを発見した。
ニコニコと子供たちに風船を配りながら、ワゴンに載ったデコレーションケーキを道行く人たちに勧めているおじさん。
不思議におじさんの周りは、とても優しく暖かい空気で満たされていた。
近くを歩いている人たちが、引き寄せられるようにケーキを物色し始める。
つい私もふらふらとおじさんの前に歩み寄り、つられてケーキを眺め出した。
「いらっしゃい、いらっしゃい!・・・ピンクのお嬢さんは、どのケーキにいたしますかな?」
「えっ?・・・あっ、ええと・・・」
突然声をかけられ、ビックリして顔を上げると、サンタのおじさんがニコニコと私を見詰めていた。
困った事に、さっきまで一緒にケーキを眺めていた人たちがいつの間にかいなくなっている。
あらら、どうしよう。
何か買わないといけない雰囲気かも・・・。
でも、私一人でこの丸いケーキは、さすがに大き過ぎて食べ切れない。
「あのぉ・・・、一人用のもっと小さなケーキは・・・、ありませんか・・・?」
愛想笑いを浮かべながら恐る恐る尋ねてみると、
「おぉ、それならこちらをどうぞ!」とワゴンの下から小さなブッシュ・ド・ノエルを取り出してくれた。
「うわぁ、可愛い・・・!」
それは、真っ白な雪化粧をふんわり纏った、小さな小さな木の切り株だった。
ふっと軽く息を吹きかけるだけで、はらはらと舞い散ってしまいそうな淡い粉雪。
切り株の上には何やらキラキラしたものが一枚飾られていて、その上に天使が二人、仲良くちょこんと腰を下ろしている。
思わず微笑んで魅入ってしまう、そんな素敵なケーキだった。
「これはねお嬢さん。当店自慢の“幸運が訪れるケーキ”なんですぞ。これを食べれば恋愛運がぐんぐん上昇すること間違いなし!」
「・・・へぇー、なるほど・・・」
恋愛運上昇って・・・。
そんなに私、恋愛運ボロボロに見えるのかな。
まあ確かに、この時期一人用のケーキを買うなんて、クリスマスを一緒に過ごす彼氏もいませんって白状しているようなものだけど・・・。
当たらずといえども遠からずの推測に、心の中で思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「あの・・・、このキラキラしたものは何なんですか?」
「ああ、それはグッド・フォーチュン・コインです」
「グッド・フォーチュン・コイン?」
「はいはい。そのコインに願い事を唱えてごらんなさい。きっと素晴らしい事が起きますぞ」
おじさん、茶目っ気たっぷりにウインクしてみせるけど、はっきり言って似合ってない・・・。
でも何だか憎めなくて、ついにっこりと笑い返した。
「それじゃ、来年の恋愛運が良くなるようにこれください」
「おぉ、毎度ありー。それでは、メリークリスマス!素敵なイブを・・・」
にこにこと手を振るおじさんに見送られ、家路に向かう。
小さな箱を胸に抱えながら、遠いどこかで頑張っているカカシ先生の姿を思い浮かべた。
本当は一緒にお祝いしたかったけど・・・。
ぐちぐち思い悩んでいてもしょうがない。
きっと今頃は忙しくて、クリスマスどころじゃないんだろうね。
今宵、先生の元にもささやかな幸せが訪れますように・・・。
「メリークリスマス、カカシ先生・・・」